梟に捧げる愛
エキドナはしょぼくれた顔で、チヴェッタとは逆の方向に向かって歩き出す。申し訳ないとは思うが、エキドナのあの悪い癖が直らないことには、どうしたって無理だ。
このままエキドナとふたり生きていくとなれば、それ相応の資金がいるし、当然ながら、住む場所も必要になる。
本当に、この国に定住してしまおうか?
期限付きの宮廷魔法使いじゃなくて、国王が言っていた通り、あの屋敷をもらって──。
「馬鹿みたい」
自分の考えを、チヴェッタは笑った。
歩き出し、王宮の廊下をしげしげと観察してみる。広い廊下だ。掃除は行き届いているし、大きな窓からは暖かな春の陽射しが注がれている。壁にはよくわからないけれど、高そうな絵が飾ってあるし、綺麗な花が活けられている大きな花瓶もあった。
ここにあるものを売れば、きっと家が買える。家を買って、お釣りも来ることだろう。
自分には場違いに思えてならない。宿り木のない梟が、王宮にいるなんて!
「そなた、魔法使いだな? 珍しい……『金眼』じゃないか」
「……?」
歩いていたら、目の前に誰かが立った。視線を上げれば、そこには貴族の男性がいた。身につけているものが高価そうだったし、何よりも偉そうだったから、貴族だと思ったのだ。
「もしや、毒蛇の魔女か? いや違うな。毒蛇の魔女は、男を惑わす容姿をしていると聞く。この娘は……そんな風には見えないな」
貴族は値踏みするようにチヴェッタを見てから、そして馬鹿にするように笑った。
チヴェッタは舌打ちしたい気分になってきた。貴族の後ろには、護衛の男性がふたり、控えている。
「伯爵、彼女はエキドナの弟子チヴェッタです」
「チヴェッタ? なるほど、思い出したぞ!」
やはり貴族だったようだ。伯爵はチヴェッタを見て、にやっと笑った。貴族のくせに、品のない笑みだ。
「未来を視るという『梟』だな。そうか……お前がそうなのか」
伯爵が一歩、チヴェッタに近づく。嫌なにおいはしないが、嫌な気分にはなった。
チヴェッタは一歩、後ろに下がる。
「こうして見ると、中々悪くない。どうだ。私の屋敷へ来ないか?」
「伯爵。彼女は宮廷魔法使いです。そのようなことは──」
護衛のひとりが意見したが、伯爵に睨まれ、口をつぐんだ。
「私のために働けば、目をかけてやる。もしも運良く金眼の子を産めば、褒美をやるぞ」
なんという男だろうか。
チヴェッタは呆れて、声が出なかった。
魔法使いは、年々、数を減らしている。きっといつか、世界から消えてしまうのだろう。今いる魔法使いだって、大昔に名を馳せた魔法使いと比べるのが申し訳なくなるような魔法しか使えないのだ。
その中で、金眼を持って生まれてくる者は、魔法の才能があるという。大金を払って手に入れたがる者もいるのだとか。
魔法使いは貴重だ。それでも、貴族達の多くは魔法使いを『所有物』として見る傾向がある。大昔の魔法使いが、そうだったから。