梟に捧げる愛
「適当なことを言うな!」
「信じるも信じないも、貴方の自由。人はいつだって、いい結果は信じて、悪い結果はどうせ占いだから、と無視しようとする。占いなんてものは結局、そんなものよ。けど、私の占いは時々、占いじゃなくなる」
「な、何を……」
「これは予言よ。貴方は確実に、私が言った通りの未来を辿る」
人が歩む人生の道は、いくつにも分かれている。
どの道を選ぶかはその時々で変わっていくけれど、人には必ず通る、運命の道があると、チヴェッタは思っている。
その運命を変えることはできない。
その運命を垣間見た瞬間、これは占いの域を超えたのだと知る。自信の正体は、それだ。
「失礼します」
「待て。小娘が私を侮辱するなど──!」
「やめぬか、みっともない」
チヴェッタを傷つけるために振り上げられた手は、幼い少年の声によって制止した。伯爵はその声に聞き覚えがあったようだ。
恐る恐る、視線をそちらへ向ける。
「お、王太子様!!」
伯爵はわかりやすい顔をしていた。純粋な驚きが、手に取るようにわかる。滑稽なほどだ。
「グライナー伯爵。そなたはまさか、白昼堂々、この王宮でか弱い淑女に手をあげようとしているのか?」
歩み寄ってきた少年の、輝く金色の髪が揺れる。その奥では大きな青い瞳が、真っ直ぐにグライナー伯爵──名前をようやく知った──を見ていた。
「お、王太子様……この者は今、私に対し失礼な物言いを……」
「一部始終は見ていた。だが、その者はそなたの未来を視ただけ。その未来を認めたくないのなら、そうならないよう己を強く戒めよ。占いも予言も、そういうものではないのか?」
王太子と呼ばれた少年は多分、十二か、十三くらい。
思えば、顔に見覚えがあった。名前は確か……チャールズ。
そう、チャールズ王子だ。国王の息子で、王太子。王女ばかり生まれる王家に、ようやく誕生したたったひとりの、念願の王子。
「そ、それは……」
「わかったのなら、下がれ。私はその娘と約束があるのだ」
チャールズが、チヴェッタを見た。約束なんてしてない、そう言いかけたが、飲み込んだ。
この伯爵と、これ以上同じ場所にいたくなかったから。
「参ろうか」
「は、はい」
チャールズは堂々とした微笑みを浮かべ、チヴェッタに手を差し出した。エスコートしてくれるらしい。
ただ、手袋をしていなかった。いいのだろうか?
チヴェッタは迷ったが、その手を取ることにした。小さな手だ。
この手が将来、この国を守るのか。
チヴェッタは珍しく、視てみたいと思った。目の前にいる幼くも強い眼差しを持つ王太子の未来を、視てみたいと思った。