梟に捧げる愛

「この国に定住する気はあるか? あるのであれば、私が後ろ盾となろう。エキドナの魔法は素晴らしい。日照りの続く村に雨を降らせ、大雨で作物がダメになるとわかったら、作物の成長を早めて、収穫させる。だがそれらすべては、そなたの占いがあればこそだ」

「……私は宿り木のない梟。いつかは飛び立つ運命にあります」

「無理強いする気はない。そなたらは『所有物』ではないのだ」

 チャールズはそう言って笑った。大人びた笑顔だった。子どもらしさは、消えている。
 王族や貴族の子どもは皆、こんな風なのだろうか?
 王女に恋占いを頼まれたときは、普通の女の子に思えたのに。男の子だから?
 責任とか、義務とか、そういったものを自分に課して、苦しくないの?

「舞踏会のときは、エルネスタが令嬢の説明をしてくれる。エルネスタはすごいぞ。知らない令嬢はいないかもしれない」

 チャールズの視線を追えば、真面目そうな顔の侍女がいた。

「殿下……もしよかったら、殿下の恋を占いましょうか? その、差し出がましいとは思いますが」

 十二歳の少年は、これからもっと、美しく成長することだろう。
 それなのに、この少年はもう、諦めてしまっている。
 それが少しだけ、不憫に思えた。

「いや、いい。恋をする相手が、妻ならばいい。だが、妻でなければ? 貴族でなく……使用人だったどうする? 叶わぬ恋ならば、いっそ知らぬ方がいい。お互いのために」

 そうじゃないのよ──チヴェッタは心の中で、否定の言葉をつぶやいた。
 けど、うまく言葉にできないような気がして、声には出せなかった。
 気の迷いだ。恋なんて、口にするべきじゃなかった。

「何か、必要なものはあるか? 個人的な頼みを聞いてもらうんだ。何か礼をしたい」

「……特には何も」

 考えてみたけれど、欲しいものも必要なものも浮かばなかった。
 あるにはあるけれど──エキドナと住む家とか、エキドナを愛してくれる男性とか──でもそれらは、人に頼んで得るようなものじゃないと、チヴェッタは理解している。

「思いついたら、いつでも言ってくれ」

 チャールズは機嫌を悪くすることなく、笑っていた。
 チヴェッタは思い出したように、カップを手に取る。紅茶は少し冷えていたけれど、構わず飲んだ。

(どうして私、ここにいるんだろう……?)

 この国に来てから、いろんなところに行って、いろんな人に会った。
 それはいいことなのかもしれないけれど、チヴェッタは困ってしまうときがある。自分の世界が、なんだかとても、広がるような気がしたのだ。
 いいことのはずなのに、いい気分じゃない。愛着がわいたら、鳥だって飛び立つのを躊躇うものだ。
 チヴェッタは梟──梟は鳥──鳥は飛び立つものよ。羽があるんだから。
 そう、どこにでも行けるの。
 だから、飛び立つ邪魔をしないでほしい。


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