梟に捧げる愛
6
チヴェッタは、水晶玉を磨いていた。傷ひとつない、綺麗な水晶玉。月が出ている夜は、月明かりを浴びさせる。昔、師匠の師匠にもらったのだ。
あの時は大きいと思っていたけれど、十八になった今は、ちょうど良くなったような気がしていた。
「最近、池にも落ちないし、物も無くならないの」
「それは良いことだわ。なんだか……嬉しそうじゃないように見えるわね」
エキドナは杖を振りながら、家の掃除をしていた。魔法を使って掃除をしているのだ。皿を洗って、床を磨いて、窓もピカピカにする。
チヴェッタには、こんなにも同時にできない。自分には、占いの才能しかないのだ。みんなはそれが、羨ましいと言うけれど。
「あの人に会ってない。……何日目かな」
チヴェッタは水晶玉から視線を外し、外を見た。昨日もその前も、騎士は来た。
けど、アイザックではなかった。彼とは何日も会っていない。
だからなのだろう。令嬢も貴族も、チヴェッタに構わなくなった。
「寂しいの?」
「違います。あの人がようやく、気づいたんです。本当に簡単なことで、毎日が穏やかに戻りました」
すべては順調だ。エキドナは誰にも貢いでいないし、チヴェッタも嫌がらせを受けない。理想的な毎日。
この日々が続くことを、チヴェッタは願っていた。
きっともうすぐ、飛び立てる。
「そう……そうね。彼は──貴族だから」
エキドナはそれ以上、何も言わなかった。
そうして掃除が一通り終わると、エキドナは出かける支度を始めだした。
「どこかへ行くのですか?」
「騎士団に届け物よ。傷薬が無くなりそうだから、頼まれていたの」
「──私が行きます」
チヴェッタは、エキドナが騎士団へ行くのを嫌がる。
だってあの人達──全員じゃないけれど、師匠の胸ばかり見るのよ!
「いいの? ヴェンデル伯爵に会うかもしれないわよ」
「そうしたら、隠れればいいんです。師匠は、舞踏会の準備があるでしょう?」
明後日、チャールズ王太子の誕生日を祝う舞踏会が開かれる。
エキドナはダンスの時間になったら、ホールに魔法をかけるのだ。キラキラと煌めく光の粒を降らせたり、触れても冷たくない雪の結晶を降らせたりする。
きっと、素晴らしい舞踏会になる。
「なら任せるわ。気をつけてね」
薬の入ったカゴを受け取り、チヴェッタは騎士団へ向かった。