梟に捧げる愛
騎士団はとても、騒がしい。剣のぶつかり合う音や、大きな声、馬の蹄の音や鳴き声も聞こえる。
チヴェッタは騎士団の敷地に入り、知っている顔を探した。
それか、それなりの地位にいる人でもいい。カゴを渡して、さっさと帰ろう。
「チヴェッタ嬢じゃないか。久しぶりだな」
「……えっと、ユルゲンス師団長?」
「あたり」
男性は近寄って、爽やかな笑顔をチヴェッタに向けた。彼について、チヴェッタは思い出した。確か自分は、つい聞いてしまったのだ。
──いつも騎士団にいますね、と。
そしたらジェラルドは屈託無く笑って、第五師団は国王や王子達を守るのが仕事なのだと教えてくれた。
ついでに、第四師団は討伐任務が専門だから、ほとんど騎士団には戻らない、とも教えてくれたことも思い出した。
「それは?」
「師匠のお使いです。傷薬が無くなりかけているとか」
カゴをジェラルドに渡して、チヴェッタのお使いは終わった。
「助かるよ。エキドナさんの作る薬は、効果が高いから。……最近はどうかな? 平和?」
「えぇ、とても」
ジェラルドの言葉の意味を、チヴェッタはすぐに理解した。微笑みを浮かべて答えれば、ジェラルドは何故か、苦笑した。
「嬉しそうだね。あいつは、君に会えなくて寂しい、って言ってたのに」
「寂しい? 何故?」
「それは、なんとも言えないな」
ジェラルドは、試すような目でチヴェッタを見ている。
その視線を向けられると、どうしてだか、胸がムカムカした。誰も見ていなかったら、舌打ちしていたかも。
チヴェッタの癖なのだ。苛立だとか、そういう感情を抱くと、舌打ちしてしまいそうになる。多分、師匠の師匠──シュヴァルベの影響だと思う。
エキドナの師匠は、チヴェッタと同じ鳥の魔法名を持っていたから、なんだか親近感があったのだ。
シュヴァルベはよく、舌打ちをしていた。
「私、帰ります。失礼します」
チヴェッタはドレスの裾を翻させながら、騎士団を去る。
ちょうど、騎士団を出ようとするとき、視界に青い髪の騎士が映り込んだ。アイザックだと、すぐに気づいた。
「…………」
アイザックは、女性と一緒にいた。亜麻色の髪の女性──貴族だと思う。微笑んで、アイザックと見つめ合っている。
お似合いだ。絵になる。完璧。
あのふたりにはきっと、侍女も嫉妬しない。
むしろ、諦めがつくのかも。
チヴェッタはちょっとだけ、後悔した。ローブを着てくればよかった。
あれにはフードが付いている。フードをかぶれば、視界が狭くなるのだ。見えるものが少なくなる。例えばそう──絵になる貴族の男女とか。