梟に捧げる愛
「チヴェッタ! 貴女がチヴェッタ──よね?」
名を呼ばれたから振り返れば、可愛らしい女性が小走りで近寄ってきた。金色の髪は、太陽の光を受けてキラキラと輝く宝石のように見える。
「わたし、アメリア。アメリア・ロイス。恋占いをお願いしたくて来たの」
アメリアは一気に、すべてを早口でチヴェッタに伝えた。アメリアの後ろから、メイド服の女性がひとり、駆けて来ている。
アメリアは男爵家の娘なのだ。
「恋占い、ですか?」
「えぇ、そう。その……」
アメリアは、チヴェッタとの距離を詰め、照れながら教えてくれた。
「その方、貴女と同じ魔法使いなの」
チヴェッタは驚き、そしてアメリアをまじまじと見つめた。貴族の令嬢が、魔法使いに恋ですって?
アメリアとお付きのメイドを連れて、チヴェッタは屋敷に戻った。エキドナは奥の作業部屋にいるらしかったので、チヴェッタはふたりを居間へ通し、厨房へ向かう。
この屋敷には、チヴェッタとエキドナしかいない。お茶の支度は、自分でしなくてはならない。
「どうぞ」
「ありがとう」
紅茶を三人分用意した。お付きのメイドが飲むかどうかはわからなかったけど、用意しないのは違うような気がしたから。
チヴェッタは紅茶を用意した足でそのまま、水晶玉を持って来た。媒介があった方が、占いの精度は増す。無くても的中率は確かなものだが、その的中率を更に上げてくれるのだ。魔力の消費も抑えられるし、使った方がいいに決まっている。
「えっと、名前を聞いても? 相手の方の」
「名前はフェレスよ」
アメリアはほのかにほおを染め、答えてくれた。
「フェレス? フェレスってあの、気まぐれな黒猫のこと?」
「その呼び名は知らないけれど、多分そう」
親しくはないけれど、知っている。魔法研究に人生を捧げている、変人だ。研究に没頭すると、食事どころか睡眠さえも忘れるのだとか。
「占ってくださる? 相性と、それから……結ばれるかどうかも」
チヴェッタは、詳しく聞かなかった。
もし、アメリアの相手を知らなかったら、聞くつもりでいた。占いは、チヴェッタが両人を知っていれば更に、その的中率を上げる。知らない場合は、アメリア自身の記憶に頼るしかない。
そして、ふたりが揃ってチヴェッタの前にいたのなら、水晶玉だって必要ないのだ。
「水晶玉に、手を置いてください。そして、相手のことを思い浮かべて」
アメリアは言われた通りにした。水晶玉はひんやりとしていて、触っていると落ち着く。
チヴェッタはゆっくりと、水晶玉に両手を添えた。ジッと見つめる。
アメリアにも、お付きのメイドにも見えないものが、チヴェッタには視えている。
ここから先は、どれだけ優秀な魔法使いにも見えない世界だ。梟だけが視ることのできる、静かな世界。