梟に捧げる愛
「…………」
「…………」
アメリアもお付きのメイドも、黙っていた。邪魔しちゃいけないような気がしたのだろう。
それに、チヴェッタはふたりのことを忘れているようにも見えた。
「──相性は、悪くありません」
「本当に!」
アメリアが笑顔になる。
ようやく居間から、静寂が消えた。
「アメリア様は献身的なようですから、相性は悪くないかと」
「じゃあ、結ばれる?」
その問いに、チヴェッタはどう答えたものか悩む。恋占いのよくない点は、ここにある。
何せ、いつも良い結果が出るとは限らないのだ。数日前チャールズが言っていたように、叶わぬ恋もある。
つまり占いによると──チヴェッタが視た未来によると、ふたりは結ばれない。
アメリアはフェレスに恋をして、それは愛に変わるけれど、フェレスは恋をしない。
なんという皮肉だろうか! 貴族は恋をしたのに、魔法使いは恋をしないなんて。
「どうしたの? もしかして、結ばれないの?」
目の前の恋する乙女に、自分はなんと言うべきだろうか。素直に真実を口にすべきか、それとも、束の間の夢を与えるべきなのか──いつかは覚めるだろうけど。
「……結ばれない、と出ています」
頭の中で、チャールズとの会話が呼び起こされた。
──小説の中にあるような恋を諦め、夫になると決まった者に恋をする。
──叶わぬ恋ならば、いっそ知らぬ方がいい。お互いのために。
あの時はそうじゃないと思った。
そう言おうとした。
それなのに今自分は、ひとつの恋を砕いたのだ。自分が小さな嘘をつけば、誤魔化しさえすれば、もう少しは保たれていたであろう恋を、たった一言で砕いてみせた。
「む、結ばれない……」
アメリアは泣きそうな顔をしていたけれど、お付きのメイドはどこか、安堵したような顔をしていたのだ。
メイドはきっと、主人の恋を応援してはいなかったのだ。貴族の令嬢と魔法使いが、結ばれるはずはないと、そう思っていたのだ。
「でも、占いだもの。必ず当たるわけじゃないでしょう?」
「私に占って欲しかったのは、当たると聞いたからでは? そう信じていたから、来たのでは?」
アメリアは黙ってしまった。暗い顔。恋が破れてしまったあと、残るのはなんだろうか?
チヴェッタは、水晶玉に触れてみた。シュヴァルベが言っていた通り、この水晶玉は特別だ。金のように、いつまでも冷たい。
水晶玉に触れながら、チヴェッタは思い出していた。
ついさっき見た、貴族の男女──アイザックを。
「────」
静かな世界に、梟が飛び立つ。何かが視えた。もやがかかったようで、はっきりとは視えなかったけれど、そこにはアイザックがいたように思う。
彼は、倒れていた。血を流して、倒れていたのだ。