梟に捧げる愛
「私には、わからないんです。愛とか、そういうものは」
「では、わたくしを見てください。貴方を愛するわたくしを見続けていれば、きっとわかる日が来ますわ」
アガーテは引かなかった。
この愛を手に入れると、固く誓っているのだ。
だから、目の前の男の意識を自分に向けさせていなければならない。
他の女性ひとを見ないで。わたくしだけを見ていて。貴方への愛を今、叫んでいるのよ。
「……貴女に恋をして、愛すると?」
「はい。そうなりますわ」
アイザックはどうしてだか、チヴェッタに、あの小さな黒い梟に会いたくなった。目の前にいるのが、君だったらよかったのに。
きっと、赤いドレスも似合うと思う。ダイヤも似合うし、他の宝石も似合うと思う。
──これが恋、なのだろうか?
アイザックは、視線を逸らす。会場を、ここからでは見えない階上席へ意識を向ける。
「アイザック様」
アガーテは急に、不安になった。目の前の男が、わたくしを見ていない。
本当は、あの魔法使いに占ってもらいたかった。婚約がうまくいくのか、アイザックと自分は、結ばれるのかを、知っておきたかったのだ。
でも、できなかった。アイザックはあの魔法使いを、気にかけているから。
あの魔法使いが憎らしいと思ったけど、他の令嬢や侍女のように、嫌がらせをすることはしなかった。
アガーテの自尊心は、誰にも汚されない。何にも、揺らがないのだと信じているから。
「私はもしかしたら、恋を──既に知っているのかもしれません」
アイザックはようやく、アガーテを見た。
その瞬間、アガーテを絶望に突き落としたのだ。
「その相手は、わたくしではないのですね」
「──はい」
アイザックの声は、穏やかだった。
その声には、力があった。アガーテが信じて疑わない、自分の中にある自尊心のようだ。
「ですが、その方と結ばれますでしょうか? 貴方は最後には、貴族を──わたくしを選びます」
すがりつくような真似はしたくない。
けれど、手に入れたい愛がある。一瞬でもいいから、その愛に触れてみたい。
「私は一度も、自分の未来を視てもらったことはないんです。彼女の力を信じていないわけじゃない。むしろ信じています。ただ、未来を知りたいと思ったことがない。私は自分が選んだ道を、正しいと信じているから」
だから、後悔はしない。するはずがない。
アイザックは会場に戻ろうとした。
その手をアガーテが掴んで引き止めようとしたが、掴めなかった。
それがふたりの運命だと、告げられたような気がした。
あの魔法使い──梟(チヴェッタ)に。