梟に捧げる愛


 幸いなことに、エキドナがすぐに治癒魔法をかけてくれたので、傷はふさがったし、出血も大したことはなかった。集まってきた野次馬を、第五師団の騎士が追い払い、ひとりの騎士がアイザックに肩を貸し控えの間へ運んだのが一時間前だ。
 チヴェッタは王太子と令嬢達の相性占いを終えていたし、罪悪感もあって、アイザックに付き添うと申し出た。心配する令嬢や侍女からすごい目で睨まれたけど、気にしないでおいた。

「…………」

 アイザックは長椅子に横になり、ゆっくりと瞬きを繰り返している。気を失うような傷ではなかった。騎士服には血が滲んでいて、チヴェッタはそれを見るたび、深い罪悪感で胸が痛んだ。
 私が貴方と関わったから……私のせい。
 自分を責めた。魔法使いなのに、自分には占いしかない。
 それなのに、その占いが役に立たないなんて。

「……ごめんなさい」

「君のせいじゃないんだから、気にしなくていい。そんな顔をするな」

 チヴェッタは長椅子の近くに椅子を持って来て、そこに座っていた。手を伸ばせば、触れられる距離だ。

「久しぶりだな。元気だったか?」

「えぇ。毎日が穏やかだったわ」

 その返答で、アイザックは理解した。
 やはり、チヴェッタが嫌がらせを受けていたのは、自分が原因なのだと。

「貴方はどう? 良いお話が来たのではない?」

「良い話?」

「エルネスタが言っていたの。ダフネル伯爵令嬢は、貴方と婚約するかもしれない、って」

 こんな時にする話ではなかったのかもしれない。
 けれどチヴェッタは、距離を置きたかったのだ。現実の距離ではなく、心の距離。

「お受けするのでしょう?」

「……しない」

 思わず、顔を上げてしまった。見れば、アイザックは傷ついたみたいな、そんな顔をしているように見えた。

「しないの? どうして? お似合いだったのに……私には、貴族同士のことは、よくわからないけど」

 チヴェッタは目を伏せた。
 どうして? と聞くのは間違っていた。そんなことは、聞かないほうがよかったのに。

「彼女に恋してない。私が恋したのは──」

「貴方は恋をしないほうがいいと思うわ」

 チヴェッタが強引に、言葉を遮った。聞くべきではないと、本能的に悟ったからだ。

「……何故?」

 アイザックが、こちらを見た。深い青色の瞳が、チヴェッタを見つめている。


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