梟に捧げる愛
「離して!」
「嫌だ」
「お願いだから!」
「離さない」
アイザックの顔を、青色の瞳を見るのが怖かった。
それなのにアイザックはチヴェッタを見つめて、そしてその瞳が、悲しげに揺れていた。青い瞳──とても澄んでいる。純粋で清らかな愛を、こんな梟に捧げようとしている。
いけないことよ。それはダメ。
私達、きっと結ばれない。そういう運命にあるはずなの。
だってわかるわ。誰も認めない。応援しない。苦しいだけの恋──そして、砕け、敗れ去る恋。
「…………」
チヴェッタは疲れて、アイザックの胸に体を預けた。今夜はたくさんの人の相性を──未来を視たから、疲れているのだ。
いっそ、自分の未来が視えたらよかったのに。
そしたらもっと具体的に、現実的な拒絶ができた。未来を知りたいと思った。自分の未来を。
この美しい騎士と結ばれない未来を、知っておくべきなだったのだと思った。
「……私は……私の気持ちは……」
チヴェッタは言葉にしようと思ったけれど、やっぱりできなかった。
嫌いと言いなさい。貴方なんて嫌い!
そう言えば、アイザックは離してくれる? もう、手を差し伸べてはくれなくなる?
胸が痛い。息苦しい。
やっぱり、恋は苦しいのだわ。
──やっぱり? やっぱりって何? まるで私が、とっくの昔に恋をしていたみたい。
「……貴方の瞳は、綺麗だわ」
チヴェッタは、アイザックを見つめ返した。そっと前髪に触れてみた。アイザックは拒まなかった。
恋──恋か。
額に触れ、瞼に触れ、鼻とほおにも触れて、最後に唇には、キスをした。
「別れのキスだと言ったらどうする? 綺麗な思い出にしたかっただけだと言ったら」
「君はそんなタイプじゃない。それが答えだよ」
「私に何を求めるの? 何を──させたいの?」
「ただ俺が捧げる愛を受け取って、笑って。でももしも、君が俺を好きだと、愛していると思ってくれたのなら……いつか君の、本当の名前を知りたい」
チヴェッタは目を伏せ、答えを探した。本名は、簡単に教えちゃダメなの。
でもこの人は、知りたがっている。
「どうして知りたがるのか、わからないわ」
「とても大切なことだから。君に──求めるとき、本当の名前で呼びたいから」
アイザックは、重要な部分を伏せた。
その部分はまだ、口にすべきではないとわかっているのだ。