梟に捧げる愛
「…………」
チヴェッタはするりと、アイザックから体を離した。
そのまま窓際に歩み寄り、窓を開けた。少しだけ冷たい風が、熱のこもる体を落ち着かせていく。
「貴方が好きよ」
告白は、誰もいない庭に向けて放たれた。
恋をしてるのね、私は。
泣きたくなった。胸は痛くないけど、苦しかった。
「……私、とても悲しいの」
「どうして?」
アイザックが、ゆっくりとチヴェッタに歩み寄り、抱きしめた。優しい抱擁だ。逃がさないためではなく、愛しさを伝えるための抱擁。
「私の翼が……折れてしまったみたい」
飛び立てない。空があんなにも遠いということを、チヴェッタは改めて思い知った。
涙が、流れていた。
「貴方が好き。だから、名前を──正義を示す、古い名前を教えてあげる」
大切に大切に、胸の奥の一番、深い場所に隠していたもの。
「ユースティティアと言うの。変でしょう? 似合わないわ」
アイザックはただ、抱きしめてくれた。肯定とも否定とも取れる行為だったけれど、チヴェッタはそれでいいと思った。
「私は梟……正義は貴方にあげる」
「ありがとう。大切にするよ」
チヴェッタは笑った。
アイザックも、笑っていた。
それがとても、嬉しいと思った。
だって、無表情が崩れてる。恋に勝利した、勝者の顔だ。
そして、愛を手に入れた幸福な男の顔。
「憎らしい人。……好きよ。多分、愛してるのかも」
チヴェッタは深く息を吐き、アイザックに体を預けた。
これが運命なのだろうか? 梟には視えない、梟自身の運命。
チヴェッタは目を閉じて、一瞬だけ、視てみた。不思議ね。
私、笑って泣いて、また笑ってた。貴方の手を離そうとして、貴方がそれを許さなくて、私は結局また、泣く。
それだけしか視えなかった。
それだけでいいと思った。
貴方を信じるわ。貴方の愛を、信じる。
ふたりは自然と、惹かれ合うようにキスをした。
それはまぎれもない、恋人同士のキスだった。