梟に捧げる愛
「アイザック・ヴェンデル伯爵のことよ。貴女のことが好きなのだわ」
「……寝言は寝て言ってください、師匠」
意に介さない様子のチヴェッタに、エキドナは子どもっぽく口を尖らせた。
「ところで師匠。いつになったらこの国を出るんです? まさか、ここに落ち着くつもりで?」
話を変えたくなったのもあったけれど、本当に気になっていたのだ。
エキドナは優秀な魔法使いだ。一番得意なのは、見た目にも合う闇魔法。
けれど、どんな属性魔法もソツなく使える。薬の調合も上手。
『男を惑わす毒蛇の魔女』――異名はどうであれ、その腕は認められていて、多くの国や有力者に声をかけられていた。
そんなエキドナだが、ひとつの場所にそう長くは止まらない。と言うのも――。
「そのことについて、明日王様とお話してくるわ」
「……まさかとは思いますけど、雇用契約を延長したりしませんよね?」
「…………」
不自然な仕草で、エキドナが目を逸らす。怪しい。嫌な予感がする。
チヴェッタはピンときた。
「また貢いだんですか!?」
「み、貢いだなんて……その言い方は好きじゃないわ。悪いことをしたみたい」
「悪いに決まってるじゃないですか! 前の国ではただの井戸水を綺麗になれる神秘の水だと言われて買って――しかも気絶しそうな値段でした!!」
「だって、ひとつも売れなくて困ってたから……。あのまま帰ったら、解雇クビになってしまうって……」
「そりゃ売れませんよ! ただの井戸水だもの! 怪しいもの!」
「チ、チヴェッタ……」
「その前の国では婚約詐欺にあいました。婚約指輪を買いたいけど資金がない。だから少しでいいから貸してくれ――そんな婚約者がいると思ってるんですか!? しかも! 出会って一週間しか経っていない男に!!」
チヴェッタは叫びに叫んで、部屋を飛び出した。向かうのは書斎だ。
そこには金庫がある。エキドナとチヴェッタが稼いだお金はすべて、この金庫に入れている。