梟に捧げる愛
アイザックが無表情で問い返すと、ジェラルドはしまった、という顔をした。
アイザックが鈍いのは分かっていたことなのに、つい失念していた。
「チヴェッタが池に落ちたりするのが、まるで私のせいみたいです」
「あ〜……それはだな」
ジェラルドはぽりぽりとほおをかく。言っていいものだろうか?
こういうことは、自分で気づかなきゃ意味がないと思うのだ。
「ユルゲンス師団長」
「……つまりだな、チヴェッタ嬢が池に落ちたり、犬に追いかけ回されたり、空から生ゴミが落ちてきたりするのはすべて……侍女や令嬢の嫉妬からくるものだ」
「嫉妬? 彼女にですか?」
アイザックはいつも通りの無表情で、ジェラルドにはちっとも心の中が読めない。
「お前がチヴェッタ嬢に構うから、お前を恋い慕う女性達が嫉妬して、嫌がらせをしてるんだよ」
「それは……本当ですか?」
「お前、本当に気づいてなかったのか?」
「私はただ、チヴェッタの不幸な場に居合わせることが多かったので、手を貸しただけなんですが……」
不思議な縁もあるものだ、と思っていた。
一週間前は、木から降りれなくて困っていたチヴェッタを木から降ろし、その数日前は何故か犬に追いかけられていたので、犬を捕まえ、追い払った。
その数日前には、生ゴミまみれで歩くチヴェッタを見つけたし、それからチヴェッタはよく、物を無くすな、と思っていた。
それがすべて自分のせいなのだとしたら、申し訳ない。
「悪循環なんだよなぁ」
「悪循環?」
「ほら、チヴェッタ嬢の占いはよく当たるだろ? だから明日の天気とか、魔物の活発になる日とかを占ってもらって、騎士団も世話になってる。お前もよく、彼女に会いに行ってただろ?」
「仕事ですから」
「お前にとっては仕事でも、それを偶然目にしたお嬢さん方には関係ない。一度や二度ならよくても、回数が増せば、特別な間柄だと思われる。だから彼女達は嫉妬して、チヴェッタ嬢に嫌がらせをする。その現場にお前が居合わせ、助ける。それを目撃したお嬢さん方は、また嫉妬して嫌がらせをする。──これの繰り返しだ」
絵に描いたような悪循環に、チヴェッタ本人はとっくに気づいていた。
だから最近、チヴェッタは露骨にアイザックを避けていたのだ。
「……それは、申し訳ないです」