茜色の記憶
流しにはおじいちゃんの畑から採れたトマトやキュウリが、洗われてカゴにあげられていた。

昔は農作業の手伝いに来てくれる人たちの食事を作ったり、収穫した野菜で大量の保存食を作っていたからか、この家の台所は広くて作業しやすい。

おばあちゃんが生きていた頃は、ぬか漬けやジャムはもちろん、らっきょう漬けや梅干し、キムチ、味噌まで自家製で作っていた。
傍で見ていたら、魔法のようで、実験のようでワクワクと楽しかったことを思い出す。

今ではこの台所の主はおじいちゃんだ。
もともと研究熱心なタイプのおじいちゃんは、おばあちゃんの残してくれたレシピに改良を重ねて、なんでも自分で作れるようになった。

その台所でおじいちゃんが貸してくれたエプロンを制服の上からつけて、わたしは手を洗い、まな板の上で野菜を切り始めた。

「キュウリはお味噌つけて食べるんだよね?」

「ああ、だからスティック状に切ってくれ」

「はーい」

自家製のお味噌をつけて食べるおじいちゃんのキュウリは、わたしの夏の楽しみのひとつだ。

戻ってきた凪から大葉を受け取ると、わたしは洗って注意深く千切りにする。

「くるみ、ゆっくりでいいからね」

そう言いながら、凪は生姜をすり始める。

「大丈夫!」

そう答えるわたしをおじいちゃんがニコニコしながら見ているのがわかる。
上手に切れるところを見せたいけど、ケガしたら迷惑をかけるから、焦らずゆっくり。凪といると、せっかちなわたしの性格が直る気がする。

凪と別れた途端に、元に戻ってしまうけれど。

冷蔵庫で冷やされていたおじいちゃんお手製のめんつゆが蕎麦猪口に注がれ、鍋に素麺が投入される。わたしは野菜を盛り付け、凪が食器をセッティングする。

幸せな楽しい時間。長い時間をかけて少しずつ積み重ねてできた、わたしたちの関係。まるで家族のようにあうんの呼吸で、わたしたちは昼ごはんを用意した。
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