茜色の記憶
「じゃあ、農業だけじゃなくて、そういう会社も作る?」

「まあ、今はまだ夢だけどさ。でも、それができる可能性があるなら、試したいじゃん。だから、ちゃんといろいろ勉強したい」

「すごい! いいじゃん! 凪、わたしも手伝うよ。一緒にがんばって、この町を盛り上げようよ!」

思わず凪に抱きつくような勢いでわたしが喜ぶと、凪は笑った。

「一緒に?」

ハッと我に返る。別に頼まれてもいないのに、自分が凪と一緒にいたいからと、凪の夢に便乗しようとしてしまった。

「ごめん、なんでもない、忘れて!」

バツが悪くて凪に背中を向けたわたしに、凪が言った。

「くるみがいいなら、一緒にやろう」

「え? いいの?」

「もちろん。くるみがいてくれたら、なんか活気が出るし。町の人たちみんなを巻き込んでいろんなことができるよ」

その言葉が幸せすぎて、途端にすべてのことにやる気になった。

「わかった! じゃあ、わたしもがんばって勉強する」

「よろしく」

凪はニコリと笑った。なんだかうれしくて気持ちが前のめりになる。

「でも、わたしはなにを勉強すればいい? やっぱり経営とか?」

「いや、くるみは広報とか、そういうPR系の勉強がいいんじゃない? いいものを作ることも大事だけど、広めることもできたほうがいいじゃん」

今まで凪とずっと一緒にいたけど、こんなふうに未来のことを話し合うのは初めてのことだった。

しかもその未来も一緒にいるという前提でいられるなんて……。

凪がお母さんのことを忘れてしまったことをおじいちゃんに告げた日に感じた不安が嘘のようだった。

おじいちゃんの言った通り、凪はお母さんのことを忘れてよかったのかもしれない。

わたしは凪とああでもないこうでもないと話し合いながら、凪との未来を考えることができる現実に浮かれていた。
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