茜色の記憶
その日も、家に帰るまでの道を凪に送ってもらった。

お母さんという存在から解放された凪はよく笑い、よく話すようになった。
凪がお母さんを忘れることで、日々の様子までこんなに変わるなんて驚きだった。
逆に、どれほど凪の心の中でお母さんの存在が大きかったか、思い知らされたような気がする。

今までの凪は、お母さんと一緒に暮らす選択肢が常に頭の中にあって、不確定要素が多すぎるゆえに将来について考えることが難しかったんだろう。

どこで暮らすのか、お母さんはちゃんと働けるのか、自分はどこまでお母さんをサポートしなくてはいけないのか、進学できるのか……。
自分だけで決められることがなさすぎて、未来に不安があったのかもしれない。

でも、会えるかどうかすらわからないお母さんのことを考えなくてよくなった今、凪は目の前のことや自分のことだけ考えればいい普通の高校生になった。

おじいちゃんの畑を引き継ぎたいと言葉にして伝えた時の、おじいちゃんの顔をわたしは忘れない。
おじいちゃんは心から驚いて、そして凪が本気だと理解した瞬間、涙ぐんだのだった。

凪にまつわるすべてのことがいい方向に向かっているように思えて、わたしはホッとしていた。

途中、水平線に沈んでいく夕日を見ることができる丘に出た。

いつもならそこでしばらくの間夕日を眺めるのが、おきまりのコースだ。
でも、その日は先客がいた。たっぷりしたロングスカートを履いて、髪はゆるやかに束ねた女の人だった。
大きめのサングラスをかけて、気持ちよさそうに海からの風を受けている。

決して広い場所ではないそこに、知らない人と三人でいるのはちょっと気まずい。
わたしと凪は顔を見合わせると、今日はそこを素通りすることにした。
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