茜色の記憶
東京に出て最初の二年は専門学校に行き、就職もしたようで、その頃まではお母さんだけには連絡があった。でも、その会社を辞めた時にお父さんと電話でもめて、そこから携帯もつながらなくなってしまった。

今ではどこにいるのか、何をしているのか、全然わからない。

「あの時、もっとちゃんと話を聞いてあげていれば、こんなことにはならなかった」

とお母さんは言っていて、そのことでお父さんを少し恨んでいる。

わたしは心配じゃないわけではないけれど、全然連絡もよこさないお兄ちゃんの勝手さに苛立ちがある。
だから、お母さんがどんなに嘆いていても、ただ共感することができないでいる。

出て行く人は気楽だ。
出て行く人は夢とか希望を胸に、ただ未来だけを見ているんだろう。
でも、残された人間は過去にされて、自分を置いて行った人を思いながら、待つことしかできない。

お兄ちゃんも凪のお母さんと一緒。残された人たちが、どんな思いでいるのか全然わかっていない。

帰って来ることができる場所だけキープして、好き勝手に生きてるだけ。

そう思うとやりきれなくて、小さな怒りを感じてしまうのだった。
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