茜色の記憶
「お金のことなんて言わないでよ。宿題だって凪に教えてもらうし、お昼だってご馳走になるし、色々お世話になってるんだから」
「人のお家のことやる前に自分の家のことやってちょうだい。
洗濯もの干したり、掃除したりくらいやってよ」
わたしはイライラして、口をつぐんだ。そんなの全然楽しくないじゃん。
「くるみは畑仕事が好きなんだよな。子供の頃から、凪くんちのおじいちゃんの畑にいたもんな」
お父さんが助け舟を出すかのように言った。
「いいことだよ。自分の生まれた場所で喜びを見つけたんだから。何も知らないくせに、外の世界ばかりに目を向けてるよりずっといい」
お兄ちゃんのことをあてこすっているのが、すぐにわかった。
それはお母さんにも伝わったみたいで、ちらりとお父さんをにらみつけた。
「くるみが好きなのは、畑仕事じゃなくて、凪くんでしょ」
「ちょっと!」
「凪くんといたいから、畑の手伝いしてるだけじゃない」
お父さんにムカついたからって、そんなこと言うなんてほんとサイテー。
わたしは言い返す気にもならなくて、黙っていた。
食卓に不穏な空気が漂う。
わたしが明るく「お母さん、やめてよ!」とか言えばもっと雰囲気が変わったのかもしれないけど、わたしはそんな風に取り繕う気にもならなかった。
「こんなんだから、お兄ちゃんに捨てられるんだよ」って悪態をつきたいくらいだった。
そんなことを言ったら、自分自身まで惨めになりそうだったから言わなかったけれど。