茜色の記憶
「え、凪寂しいの?」

「あ、いや寂しいっていうかさ。いいじゃん、動物と一緒に寝る感じ」

ムキになって言う様子がおかしかった。

「寂しいから、ぶっちーと寝たいんだー」

わたしがわざとニヤニヤして見せると凪は助けを求めるようにぶっちーに声をかける。

「ぶっちー、このお姉ちゃん、意地悪だなー、ぶっちーだけが僕の理解者だぞー」

「なにそれ」

凪もふふっと笑う。わたしたちは夏の昼下がり、穏やかな時間の中にいた。

ふとした瞬間に、「凪、大好き!」って言いたくなることがある。
こうやって一緒に畑仕事をしているとき、お昼を食べているとき、のんびりくつろいでいるとき。本当になんでもない瞬間に、凪を好きだと思う気持ちが溢れてきて、「大好き!」と叫んでぎゅっと抱きしめたいという衝動に駆られてしまうことがよくあった。

もしわたしが本当にそれを実行したら、凪はどんな顔をするんだろう。

笑って抱きしめ返してくれるかな。

驚いた顔をするかな。それとも、「なんで?」って顔をするかな。

凪がわたしと同じ熱量で、わたしのことを好きだと思ってくれる自信がもてない。

もし、わたしが何かアクションを起こすことで、凪とのいい関係が壊れてしまったらと思うと怖くてしょうがない。

だから、今はまだ幼馴染のポジションで、凪の隣に入られたらそれで十分と、そう思っていたのだった。
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