茜色の記憶
「な、凪?」

「どうした?」

「大変、凪くん! 」

凪は真っ白な顔をして、気を失っていた。

「やだ、凪! 大丈夫? しっかりして、凪! 凪!」

小さな郵便局はパニックに陥った。

お父さんともうひとりの男性職員で、待ち合い室のベンチに凪を横にしたところで、凪が目を開けた。

「凪! 大丈夫?」

わたしは半泣きで声をかけた。凪はぼんやりとした顔をしている。

「あれ、僕……」

「凪! よかった!」

覗き込んでいたお父さんや職員の人たちも一斉に安堵の表情を浮かべた。

「もう、凪ってば、驚いたじゃない。ずっと畑にいたし、熱中症かなあ」

わたしがそう言うと、ひとりの職員さんが麦茶を持って来てくれた。

「とにかく水分、とりなさい。水分」

ゆっくりと起き上がった凪に、冷たいグラスを渡す。

凪はやっとひとくち、口に含んでゆっくりゆっくり飲み込んだ。

それでも凪はまだぼんやりしていた。ぼんやりというか、心ここにあらずな感じがする。

どうしたんだろう、凪ってば。なんだかいつもと違う。

そう思った時、凪がポツリと言った。
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