茜色の記憶
「あ!」
一番古くから働いている関根さんというおばさんが、声をあげた。
「田ノ上幸枝って、もしかしたらゆきちゃんの前の名前じゃないかしら」
「ゆきちゃん?」
聞き覚えのある呼び名に、わたしは頭の中をフル回転させた。
「そう、くるみちゃんも凪くんも知ってるはずよ、『山と海のマルシェ』の直売所にいるゆきさん」
『山と海のマルシェの直売所のゆきさん』なら、顔見知りだった。おじいちゃんについて野菜をおろしに言った時や、野菜を買いに行った時に、必ず見かける職員さんだ。
多分、お母さんよりは少し若いくらいの人。
小柄でいつもニコニコしていて、フットワークよく動き回る姿が印象的だった。
「え、でもゆきさんって、確か坂下さんですよね。田ノ上って……」
「だから! ゆきさんは今の旦那さんとは再婚なの!」
その言葉に、お父さんが「そうだ、そうだ!」と声をあげた。
「ゆきさんは最初、夫婦で東京から移住してきたんだ。でも、いつのまにか旦那の姿を見かけなくなって、そうしてるうちにゆきさんも土地を売って、市内でくらすようになって坂下の次男坊と再婚したんだ」
「そうそう! 失踪して何年かたつと、相手がいなくても離婚出来んのよね。ゆきさんはそれでも待ってたんだけど、坂下さんとこの息子さんがゆきさんにベタ惚れして、口説き落としたのよ」
関根さんが大きく頷きながら言った。
すると黙って話を聞いていた凪がポツリと言った。
「じゃあ、あの人は奥さんが再婚してるって知らないんだ……」
その言葉にわたしはうなずいた。
一番古くから働いている関根さんというおばさんが、声をあげた。
「田ノ上幸枝って、もしかしたらゆきちゃんの前の名前じゃないかしら」
「ゆきちゃん?」
聞き覚えのある呼び名に、わたしは頭の中をフル回転させた。
「そう、くるみちゃんも凪くんも知ってるはずよ、『山と海のマルシェ』の直売所にいるゆきさん」
『山と海のマルシェの直売所のゆきさん』なら、顔見知りだった。おじいちゃんについて野菜をおろしに言った時や、野菜を買いに行った時に、必ず見かける職員さんだ。
多分、お母さんよりは少し若いくらいの人。
小柄でいつもニコニコしていて、フットワークよく動き回る姿が印象的だった。
「え、でもゆきさんって、確か坂下さんですよね。田ノ上って……」
「だから! ゆきさんは今の旦那さんとは再婚なの!」
その言葉に、お父さんが「そうだ、そうだ!」と声をあげた。
「ゆきさんは最初、夫婦で東京から移住してきたんだ。でも、いつのまにか旦那の姿を見かけなくなって、そうしてるうちにゆきさんも土地を売って、市内でくらすようになって坂下の次男坊と再婚したんだ」
「そうそう! 失踪して何年かたつと、相手がいなくても離婚出来んのよね。ゆきさんはそれでも待ってたんだけど、坂下さんとこの息子さんがゆきさんにベタ惚れして、口説き落としたのよ」
関根さんが大きく頷きながら言った。
すると黙って話を聞いていた凪がポツリと言った。
「じゃあ、あの人は奥さんが再婚してるって知らないんだ……」
その言葉にわたしはうなずいた。