茜色の記憶
「帰るよ」
でもそんなことはおくびも見せない。
駐輪場から自転車を出している凪に、そう声をかけるとわたしはさっさと自転車をこぎ出した。
「おいおい」
凪はそうは言いながらも全然焦っていないのがわかる声で、自転車を漕ぎ出した。
学校を出てすぐの道は近くの国道に出るまで、ほとんど車通りのない一本道だ。
春には桜が咲き誇るその並木道は、今は濃い緑の葉っぱを茂らせていて、道路に日陰を作ってくれる。
そこだけひんやりと感じられる空気の中、わたしは風を切って自転車を走らせる。頬に風が当たるのを感じながら、強くペダルをふむ。
そんなわたしの後ろを凪が走る。
わたしがどんなにスピードを上げようと、のんびりぼんやり走っていようと、凪は一定の距離を保ってついてくる。
それがいつものわたしたちの通学スタイルだった。
「通知表どうだった?」
前を見たまま、後ろの凪に尋ねる。
「フツー」
「普通ってどれくらい?」
「中学と変わらないくらい」
高校に入って初めての通知表。わたしの通知表はちょっと残念な感じだった。
中学の時はそれこそ普通だったのに。
やっぱり高校はみんなレベルが高いんだなと、わかっていたことだけど、再認識した。
そんな中でも凪は「フツー」だなんて。中学のとき、凪は上位の常連だったから、凪の「フツー」はわたしにとっては「かなり良い」ってことだ。