茜色の記憶
「本来、転送期間は半年だ」
そうお父さんが呟いた。
「半年を過ぎたら、古い宛名できた郵便物は返送されるのが決まりなんだ」
その言葉をみんなが黙って聞いていた。
だから、返送するの? だけど、居場所がわかるなら届けるの?
後に続く言葉がどちらでもあり得る気がした。お父さんもどうしていいのか決めかねているのがわかる。
重い沈黙を破ったのは凪だった。
「返送するとしても明日でしょう?」
もう五時近かった。郵便局も閉める時間だ。
「あ、ああ。そうだね」
すると、凪はさっと立ち上がった。歩き出して、ちょっとよろめく。
「凪! だめだよ、まだ横になってたら?」
「大丈夫」
凪はきっぱり言うと早足で歩き出し、郵便局を出て行った。わたしは慌てて凪を追いかけた。