茜色の記憶
『山と海のマルシェ』に着くと、凪は駐輪場に自転車を残してまっすぐに直営所に向かって行った。
「待って! 凪! 落ち着いて!」
わたしは必死で凪の腕をつかんだ。
一体、凪がどうゆきさんに話をするのか検討もつかなくて、凪を落ち着かせたかったのだ。
でも、振り向いた凪は、わたしが思っていたより穏やかな顔をしていた。
「落ち着いてるよ。くるみのほうこそ、大丈夫? 顔、真っ赤だけど」
凪の全速力についていくのに必死で、わたしは汗だくになっていた。
「凪、ゆきさんになんて話すの? ゆきさん驚いちゃうよ」
「元旦那さんからの手紙が、郵便局にあるってことを伝えるだけだよ。読みたくなかったら、ほっておくだろうし、読みたかったら問い合わせるだろうし」
「……でも、元旦那さんからの手紙が来たなんてことすら、知りたくないかもよ。知らないでいるほうが、幸せでいられるかもしれない」
すると凪は悲しげな目でわたしを見た。
「それは、くるみが見てないから」
「え?」
「あの人がどんな気持ちで手紙を書いてるか、見てないから。……それに、あの人の思い出の中で、ゆきさんはいつも笑顔だった。あんな風に笑い合った相手からの手紙、絶対読みたいよ。僕だったら、絶対読みたい」
どんな気持ちで書いてるか見てないから……って。
本当に凪は、そのゆきさんの元旦那さんの姿が見えたって言うの?
その人がどんな思いで書いているのか、その内面までも見えたって言うの?
「待って! 凪! 落ち着いて!」
わたしは必死で凪の腕をつかんだ。
一体、凪がどうゆきさんに話をするのか検討もつかなくて、凪を落ち着かせたかったのだ。
でも、振り向いた凪は、わたしが思っていたより穏やかな顔をしていた。
「落ち着いてるよ。くるみのほうこそ、大丈夫? 顔、真っ赤だけど」
凪の全速力についていくのに必死で、わたしは汗だくになっていた。
「凪、ゆきさんになんて話すの? ゆきさん驚いちゃうよ」
「元旦那さんからの手紙が、郵便局にあるってことを伝えるだけだよ。読みたくなかったら、ほっておくだろうし、読みたかったら問い合わせるだろうし」
「……でも、元旦那さんからの手紙が来たなんてことすら、知りたくないかもよ。知らないでいるほうが、幸せでいられるかもしれない」
すると凪は悲しげな目でわたしを見た。
「それは、くるみが見てないから」
「え?」
「あの人がどんな気持ちで手紙を書いてるか、見てないから。……それに、あの人の思い出の中で、ゆきさんはいつも笑顔だった。あんな風に笑い合った相手からの手紙、絶対読みたいよ。僕だったら、絶対読みたい」
どんな気持ちで書いてるか見てないから……って。
本当に凪は、そのゆきさんの元旦那さんの姿が見えたって言うの?
その人がどんな思いで書いているのか、その内面までも見えたって言うの?