茜色の記憶
とても信じられないようなことだったけれど、凪の顔は真剣だった。

凪はどんどん直営所の中に入って行ってしまった。
わたしも追いかける。

夕方の直営所は商品はもうほとんど売り尽くされて、人はほとんどいない。
後片付けをしているスタッフの人に駆け寄ると、凪が尋ねた。

「ゆきさんはいますか?」

「あー、さっき上がったよ。ゆきさんは五時までだから」

そう聞いた途端、凪は踵を返し、直売所を出て裏の職員の出入り口に向かった。
わたしはついていくのだけで必死だった。
凪から発せられる空気がピリピリとしていて、とても止めることなどできなかった。

職員の出入り口に着くと、ちょうどゆきさんが出て来たところだった。

「あの!」

凪に呼びかけられ、ゆきさんが驚いたように振り向いた。

「あ……四宮さんとこの……凪くん?」

「はい」

「どうしたの? ……おじいちゃんが何か?」

ゆきさんにはなんで声をかけられたのか、見当もつかないようだった。当たり前だ。顔なじみとは言え、今まで特に話をしたことなんてないのだから。

さすがに凪も一瞬ためらったようだった。少しだけ考えて、切り出した。


「郵便局にあなた宛の手紙がきてます」

「え?」

「差出人は『田ノ上誠』さんです」


ゆきさんの顔からすっと色が引いた。

「宛先が『田ノ上幸枝』さんになってるので、宛先人不明で戻ってきたんです。

…ゆきさんのことですよね?」
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