茜色の記憶
そこまで聞いて、ゆきさんは駐車場に向かって歩き出した。
凪は追いかけると、横に並んで歩きながら説明した。
「明日の午前中には、返送されてしまうと思います。もし、読みたいと思うなら、郵便局に連絡してください」
ゆきさんは黙ったままだった。自分の車まで来ると、自動車のキーをバッグから取り出そうとした。
でも、なかなか見つからないようで、バッグの中をかき回すようにしている。
「ああ、もう!」
イライラした顔でゆきさんが言った。そして吐き出すように呟いた。
「なんで今頃?」
それは手紙の差出人に言ったのは明らかだった。
その問いかけに答えることは凪にもできなかった。
黙り込んだ凪をよそに、再びゆきさんはバッグの中をかき回し、そしてやっと鍵を取り出すと車のドアを開けた。
乗り込もうとするゆきさんに凪が言った。
「読んだほうがいいと思います」
「え?」
「読んであげてください。お願いします」
そう言って、凪は深々と頭を下げた。
ゆきさんはその凪の姿をしばらく見つめていたけれど、なにかを振り切るように車に乗り込んでしまった。
それでも凪は頭を下げたままだった。
ゆきさんが車を出し、発車した車が見えなくなっても凪は頭を上げようとはしなかった。