茜色の記憶
「彼が畑に出なくなってからは、喧嘩ばかりしてた。わたしもついひどい言葉をかけてしまったこともあるし……。でも、彼がやりたくて始めたことだったから、簡単にあきらめて欲しくなくて……」
だから、旦那さんが出て行った時も、半ば意地のような気持ちで、畑仕事を続けたのだという。
「そしたら、なんでかわからないけど、すごくうまく行ってしまってね。それまでの何倍も収穫することができたの」
でも、確実に収穫できるようになればなるほど、ひとりで畑を切り盛りしていくのは大変だった。
そんなとき助けてくれたのが、今の旦那さんである坂下さんだった。
一緒に作業しているうちにふたりの心はどんどん近くなって言った。
元旦那さんと話し合いもできないまま、離婚することはできないと言うゆきさんを五年も支えながら待ってくれたのだ。
「五年は……、長いですね」
「もう十分なんじゃないかって言ってくれた。彼の夢を捨てたくない気持ちはわかるけど、そろそろ自分の為に生きてみたらって」
「……彼の夢?」
「そう、農業をやるのは彼の夢だったの。だから、彼が捨ててもわたしは捨てられなかった。わたしのそんな気持ちをわかっていて、それでもそばにいてくれたんだと思ったら本当にありがたくてね」
わたしは坂下さんの旦那さんの姿を思い出した。小柄な愛想のいい、おじさんだ。あの人がそんなに大きな心の持ち主だなんて、思わなかった。
好きになった女の人の旦那さんの夢を守るために、一緒に頑張ったなんて、それって究極の愛じゃないだろうか。
だから、旦那さんが出て行った時も、半ば意地のような気持ちで、畑仕事を続けたのだという。
「そしたら、なんでかわからないけど、すごくうまく行ってしまってね。それまでの何倍も収穫することができたの」
でも、確実に収穫できるようになればなるほど、ひとりで畑を切り盛りしていくのは大変だった。
そんなとき助けてくれたのが、今の旦那さんである坂下さんだった。
一緒に作業しているうちにふたりの心はどんどん近くなって言った。
元旦那さんと話し合いもできないまま、離婚することはできないと言うゆきさんを五年も支えながら待ってくれたのだ。
「五年は……、長いですね」
「もう十分なんじゃないかって言ってくれた。彼の夢を捨てたくない気持ちはわかるけど、そろそろ自分の為に生きてみたらって」
「……彼の夢?」
「そう、農業をやるのは彼の夢だったの。だから、彼が捨ててもわたしは捨てられなかった。わたしのそんな気持ちをわかっていて、それでもそばにいてくれたんだと思ったら本当にありがたくてね」
わたしは坂下さんの旦那さんの姿を思い出した。小柄な愛想のいい、おじさんだ。あの人がそんなに大きな心の持ち主だなんて、思わなかった。
好きになった女の人の旦那さんの夢を守るために、一緒に頑張ったなんて、それって究極の愛じゃないだろうか。