茜色の記憶
ゆきさんと話をしたのが、ちょうど昼ごろ。
ゆきさんが手紙に返事を書くと心を決めてくれて、急遽わたしたちは東京行きを決めた。


ゆきさんが書いた短い手紙と、逢えたならぜひ渡して欲しいと言われた小さな紙袋を手に、わたしたちは駅に走った。

平日の昼、一時間に二本しかこない電車に、タイミングよく乗りこむことができて、ホッとする。

ガラガラの電車に並んで座り、わたしは凪にたずねた。

「どこに行くの?」

「病院」

「わかるの?」

すると、凪はスマホのメモを見せてくれた。『品川厚生総合病院』と記されている。

「昨日、手紙から読み取ることができたから、調べておいたんだ」

「……なんだか信じられない」

「さっきゆきさんが持ってた手紙も、消印は品川郵便局だったから、やっぱりって思って」

それでもわたしは半信半疑だった。
だって、触れただけで、差出人が入院してる病院まで見えてしまうなんて。

「なんかさ」と、凪が呟いた。

「なに?」

「僕、子供の頃からこの能力があった気がするんだよね。なんでだかすっかり忘れてたんだけど……」

手紙に触れると差出人の思いや状況が読み取れて、その能力が実は昔からあって、でもなぜだかそのことをすっかり忘れていて……って、聞けば聞くほど胡散臭い話なんだけど、なぜだか凪にならそういうこともある気がした。

凪って、なんだかそういうちょっと不思議なオーラがある。

小学生の時から、他の男の子とはちょっと違うって思い続けてきたけど、それってこういうこと?

正直に言うと、この時はまだわたしはなんだか全てのことが半信半疑で、でもなんだか思いもしなかった展開が続いて興奮していた。
ちょっとした冒険に巻き込まれてしまったくらいの気持ちで、なんだかワクワクしていたのだ。
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