茜色の記憶
しかし、『品川厚生総合病院』が実在していて、入院病棟の面会受付で調べてもらうと『田ノ上誠』さんが実際に入院していると分かった時は、さすがにぞくっとした。
ゆきさんは田ノ上さんが入院してることを知らない。
手紙にあった住所に手紙を届けるとしか思っていない。
だとしたら、誰が凪に田ノ上さんが入院していること、そしてその病院まで伝えることができる?
本当に手紙に込められた思いを読みとったってことなの?
わたしの動揺に気にも止めず、凪は教えられた病室に足早に向かった。
五階にあるその部屋は、八人部屋だった。
一番入り口に近い場所にあるベッドが田ノ上誠さんだった。
田ノ上さんのベッドはカーテンに囲まれていた。
凪がそっとカーテンを開け、ふたりで中を覗き込んで見ると、田ノ上さんは酸素マスクをつけられた状態で寝ていた。
わたしは入院している人をあまり見たことがないけれど、それでもその顔色や酸素マスク、ベッドの脇に置かれた心電図の機械、体から伸びる何本もの線から、田ノ上さんはもう長くはないのだと察することができた。
わたしは途端に怖くなって、近寄ることができなくなってしまった。
しかし、凪はベッドサイドまで近づくと、耳元に声をかけた。
「田ノ上誠さんですね」
反応はない。それでも凪は声をかけ続けた。
ゆきさんは田ノ上さんが入院してることを知らない。
手紙にあった住所に手紙を届けるとしか思っていない。
だとしたら、誰が凪に田ノ上さんが入院していること、そしてその病院まで伝えることができる?
本当に手紙に込められた思いを読みとったってことなの?
わたしの動揺に気にも止めず、凪は教えられた病室に足早に向かった。
五階にあるその部屋は、八人部屋だった。
一番入り口に近い場所にあるベッドが田ノ上誠さんだった。
田ノ上さんのベッドはカーテンに囲まれていた。
凪がそっとカーテンを開け、ふたりで中を覗き込んで見ると、田ノ上さんは酸素マスクをつけられた状態で寝ていた。
わたしは入院している人をあまり見たことがないけれど、それでもその顔色や酸素マスク、ベッドの脇に置かれた心電図の機械、体から伸びる何本もの線から、田ノ上さんはもう長くはないのだと察することができた。
わたしは途端に怖くなって、近寄ることができなくなってしまった。
しかし、凪はベッドサイドまで近づくと、耳元に声をかけた。
「田ノ上誠さんですね」
反応はない。それでも凪は声をかけ続けた。