茜色の記憶
凪は六歳のとき、お母さんに連れられて東京からこの町にやってきた。
そして、おじいちゃんと、当時まだ生きていたおばあちゃんの所に預けられた。

どうして、お母さんは一緒に暮らさないのか、凪だけを残していったのか、詳しいことはわたしは知らない。

この町は東京から電車で二時間ほどのところにある、海と山と両方に恵まれた自然豊かな場所だ。

決して過疎の町というわけではないけれど、のどかで穏やかな空気の中、ゆったりと時間が流れていくような暮らしに退屈し、物足りなさを感じてしまうのか、高校を卒業すると東京に出ていく人は少なくない。

わたしのお兄ちゃんもそうだし、凪のお母さんもそうだったようだ。

凪のお母さんである満帆さんは、おじいちゃんたちが止めるのも聞かずに家出当然で東京に出て行った。

ここら辺では評判の美人さんだった満帆さんだったから、芸能事務所にスカウトされていたらしい、もうドラマでデビューすることが決まっているらしいなんて噂が当時はまことしやかに流れたらしい。

でも、結局満帆さんがテレビに映ることは一度もなかった。

連絡もほとんどなく、どんな暮らしをしているのかも、どんな仕事をしているのかもわからなかったようだ。

おじいちゃんもおばあちゃんも、自分たちに娘はいないと思う事にしようと考え、半ばあきらめていたらしい。
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