茜色の記憶
わたしが投げ出すように言うと、凪が困ったように笑った。

「ゆきさんの幸せを思って身を引いたけど、最後はやっぱり会いたい。でも真実は隠したい……って、なんか思いが複雑すぎて、理解できない」

「あの人があの手紙を通して伝えたかったことは、書かれていないことだよ」

「え?」

まるで禅問答のような凪の言葉に、わたしの頭はこんがらがった。

しかめっ面になったわたしに凪がゆっくりと言った。


「あの人が本当に伝えたかったのは、『愛してるよ』って、それだけなんだ」


その言葉を聞いた瞬間、ふっと頭の中が白くなって、ぎゅっと心臓を掴まれたように痛くなった。

そして、理論とか矛盾とか、裏腹とか、そういう言葉が途端に意味のない言葉なのだと実感した。
なんだか、すべてが腑に落ちたような気がした。


なんで急にそうなったのかは自分でもわからない。

でも、『愛してるよ』と言いたかったのだと言われたら、あの手紙の全てがそうだったんだろうと一気に納得させられた。
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