茜色の記憶
――十年前、おじいちゃんの娘・満帆さんは六歳の凪を連れてこの町にやってきた。
家出同然に町を出てから十年、凪のお父さんと離婚して三年が経っていた。
離婚してから毎月欠かさず支払われていた養育費が、不況やらお父さんの再婚で滞るようになって、満帆さんもパートではなく本気で仕事をしなくてはいけない状況に追い込まれていた。
満帆さんはきちんと就職して、仕事に慣れるまでの間だけでも凪を預かってほしいと言ってやってきたのだった。
おじいちゃんたちは、初めて会う孫の凪がかわいくて愛しくて、ふたつ返事でそれを承諾した。
翌年の四月には小学校の入学を控えていたし、長くても半年くらいのものだろうと考えていたのだ。
凪は大人しく、幼いのに大人の気持ちを汲(く)み取って行動する子供だった。
初めて会う祖父母との暮らしに緊張しているようにも見えた。
母とふたりきりの暮らしが凪をそんなふうにしたのだろうと、おじいちゃんたちはできる限り凪と共に過ごした。
畑仕事をするのも、町へ買い物に出る時も、必ず凪を連れて出かけ、三食一緒にご飯を食べた。
凪もどんどんここの生活に慣れ、笑顔もたくさん見せるようになっていた。
満帆さんが東京に戻ってからしばらくして、手紙が届いた。
凪と一緒に生活する環境を整えるために仕事をがんばっていること、努力しているけどもう少し時間がかかりそうなこと。
凪と一緒に暮らすことを夢見てがんばるから、凪もおじいちゃんたちを困らせないようにすること。そんな内容が書かれていた。
まだ文字を読むことが得意ではなかった凪は、何度も何度もその手紙を読んでほしいとねだり、暗唱できるほどになっていた。
ある日、おじいちゃんは満帆さんからの手紙にじっと手のひらを当てている凪がすすり泣いているのを見かけた。
家出同然に町を出てから十年、凪のお父さんと離婚して三年が経っていた。
離婚してから毎月欠かさず支払われていた養育費が、不況やらお父さんの再婚で滞るようになって、満帆さんもパートではなく本気で仕事をしなくてはいけない状況に追い込まれていた。
満帆さんはきちんと就職して、仕事に慣れるまでの間だけでも凪を預かってほしいと言ってやってきたのだった。
おじいちゃんたちは、初めて会う孫の凪がかわいくて愛しくて、ふたつ返事でそれを承諾した。
翌年の四月には小学校の入学を控えていたし、長くても半年くらいのものだろうと考えていたのだ。
凪は大人しく、幼いのに大人の気持ちを汲(く)み取って行動する子供だった。
初めて会う祖父母との暮らしに緊張しているようにも見えた。
母とふたりきりの暮らしが凪をそんなふうにしたのだろうと、おじいちゃんたちはできる限り凪と共に過ごした。
畑仕事をするのも、町へ買い物に出る時も、必ず凪を連れて出かけ、三食一緒にご飯を食べた。
凪もどんどんここの生活に慣れ、笑顔もたくさん見せるようになっていた。
満帆さんが東京に戻ってからしばらくして、手紙が届いた。
凪と一緒に生活する環境を整えるために仕事をがんばっていること、努力しているけどもう少し時間がかかりそうなこと。
凪と一緒に暮らすことを夢見てがんばるから、凪もおじいちゃんたちを困らせないようにすること。そんな内容が書かれていた。
まだ文字を読むことが得意ではなかった凪は、何度も何度もその手紙を読んでほしいとねだり、暗唱できるほどになっていた。
ある日、おじいちゃんは満帆さんからの手紙にじっと手のひらを当てている凪がすすり泣いているのを見かけた。