茜色の記憶
ある日、彼が掃除をやらずに、ほうきと雑巾を使って、野球をやっていたのを見てわたしの苛立ちは爆発した。
「どうして、いつもちゃんとできないの?」
その時のわたしは小さなお母さんのようだったと思う。
ヒステリックで自分だけが正しいと思ってるダメなタイプのお母さん。
「わかったよ、うるせーな」と渋々掃除を始めてもなお、「この前もやってなかなった、あの時もだめだった」と並べ立てて責めていたら、彼がとうとうキレてしまい、ゴミ箱を蹴飛ばした。わたしはびびりながらも、「自分で拾いなよ!」と叫んだら、今度はわたしに向かってほうきを振り回してきた。
慌てて逃げたけれど気づいたら教室の隅に追い詰められていた。
彼がほうきを振り上げ、殴られる! と目を閉じた瞬間、凪がわたしにおおいかぶさってきた。
ボコん、と鈍い音がして、見ていた女の子たちがキャーッと悲鳴をあげるのが聞こえた。そっと目を開けると、顔をゆがめて、痛みをこらえている凪がいた。
「凪、大丈夫?」
わたしがあわてると、凪は顔をしかめながらも「大丈夫」と頷いた。
「ちょっと! 暴力なんてサイテー!」
わたしはガキ大将にくってかかった。
すると、凪がわたしの腕をひっぱった。
「くるみちゃん、言い過ぎ。それじゃ正しいことを言っても、正しく聞こえないよ」
「え?」
「言葉も人を傷つける武器になるんだよ」
凪にそう言われてガキ大将を見ると、彼はぜんぜん関係ない凪を殴ってしまったことで顔色が青ざめていた。
「もういいじゃん。掃除しよう」
なにごともなかったかのようにそう言うと、凪はその子の手からそっとほうきを取り、掃きだした。
「どうして、いつもちゃんとできないの?」
その時のわたしは小さなお母さんのようだったと思う。
ヒステリックで自分だけが正しいと思ってるダメなタイプのお母さん。
「わかったよ、うるせーな」と渋々掃除を始めてもなお、「この前もやってなかなった、あの時もだめだった」と並べ立てて責めていたら、彼がとうとうキレてしまい、ゴミ箱を蹴飛ばした。わたしはびびりながらも、「自分で拾いなよ!」と叫んだら、今度はわたしに向かってほうきを振り回してきた。
慌てて逃げたけれど気づいたら教室の隅に追い詰められていた。
彼がほうきを振り上げ、殴られる! と目を閉じた瞬間、凪がわたしにおおいかぶさってきた。
ボコん、と鈍い音がして、見ていた女の子たちがキャーッと悲鳴をあげるのが聞こえた。そっと目を開けると、顔をゆがめて、痛みをこらえている凪がいた。
「凪、大丈夫?」
わたしがあわてると、凪は顔をしかめながらも「大丈夫」と頷いた。
「ちょっと! 暴力なんてサイテー!」
わたしはガキ大将にくってかかった。
すると、凪がわたしの腕をひっぱった。
「くるみちゃん、言い過ぎ。それじゃ正しいことを言っても、正しく聞こえないよ」
「え?」
「言葉も人を傷つける武器になるんだよ」
凪にそう言われてガキ大将を見ると、彼はぜんぜん関係ない凪を殴ってしまったことで顔色が青ざめていた。
「もういいじゃん。掃除しよう」
なにごともなかったかのようにそう言うと、凪はその子の手からそっとほうきを取り、掃きだした。