茜色の記憶
そう言って凪はニコリと笑った。
幸せそうな満足げなその笑顔はわたしに向けられたものではなくて、離れて暮らすお母さんのことを思うことで生まれたものだと言うことが子供心にわかった。
「だから、僕は大人しいんじゃなくて、穏やかなんだよ」
「それって違うの?」
「違くないかな?」
「違う気もするけど……」
よくわからなくて曖昧に答えたわたしを見て、凪がふふと笑った。
まあいっかとわたしは思った。
騒々しい男子より、『穏やかな』凪の方がずっといい。
そうやってわたしと凪は毎日毎日一緒に通学した。
町の中心地から少し離れたところにわたしの家があり、そこからさらになだらかな坂道を登って畑が広がる地域に凪の家がある。
毎朝、凪が来るのを待って一緒に登校し、一緒に下校してわたしの家からひとりで坂道を登り、帰っていく凪を見送った。
小学校の隣にある中学校に入ってからもそれは変わらなかった。
そして今年、わたしたちは同じ高校に入学した。自転車で通学するようになったけど、凪と二人で通うのは変わらない。
わたしたちが一緒に過ごすようになって、十回目の夏を迎えていた。