さくら、舞う。ふわり
「――でな、この桜並木に集まる幽霊ってのは、ひと言でいうと『エロ幽霊』だ」
清々しく言い切る綾人の表情は、若干悪ぶれたような笑みが浮かんでおり、それが由衣の心情を大いに揺さぶる。
「もう……それって冗談でしょ? 私を怖がらせて揶揄(からか)ってるんだ、きっと」
しかもただの幽霊ではなく、手前にエロとつくのだ。胡散臭くて仕方がない。
「違げえって。マジな話、ここいらは幽霊が集まるって噂だ。現に何人も目撃者はいるし、俺の友達も学校の帰りにこの道を通って、木のそばに立つ幽霊を見たってビビリまくってたぞ」
「やだ。それが本当なら、名倉くんはどうして、こんな怖い場所で花見なんか……」
『しかもぼっち花見なんて』――そうつづけようとして、それではまるで友達がいないと言ってるようなもの。由衣は慌てて呑み込み、口をつぐむ。
「俺さ、この先にあるフレンチレストランでバイトしてんだ。そんでオーナーの時間があるときに、簡単な料理を教わってんだ。
俺ン家な、お袋が早くに亡くなって、親父とふたりで暮らしてんだけど、親父のやつ料理だけはからっきしなんだ。でさ、ガキん頃から俺が料理担当してて、気がつきゃシェフんなるのが夢になってた」