さくら、舞う。ふわり
そう夢を語る綾人の瞳は輝いていて、思わず私は見惚れ、吸い込まれてしまいそうになった。
彼の父親は商社勤めで、家を空けることもしょっちゅうらしい。だから料理の腕は上がることはなく、反対に綾人の腕はぐんぐん上達する。
将来の夢を語ると、父親はそれを応援し、レストランでのバイトも快諾してくれたんだって。
「じゃあこの重箱に詰められてる料理って」
「そう、俺がつくったやつ。余った材料つかって教わってるから、料理に統一性はないけどな」
そう楽しげに話す綾人は、だけどもすごく嬉しそう。きっと教えてくれるオーナーさんのことを、とても尊敬していて同時にすごく好きなんだって、彼の表情から見て取れた。
「ううん。とっても綺麗だよ。まるで箱のなかに、春をとじ込めたみたい」
「マジで? おっしゃ! 今日の弁当ってさ、由衣が言ったように春がコンセプトなんだ。それ分かってくれてめちゃ嬉しい」
由衣って、さらりと私の名を呼ばれ、心臓が飛び跳ねる。たんに人懐こいだけなのか、いまいちよく分からない綾人に、この時はただ翻弄(ほんろう)されるまま。
けどふたたび口をひらいた綾人によって、生まれて初めて私の人生に色がついた。
「ここに集まる幽霊はさ、いちゃつくカップルのエロオーラに惹かれて、集まってくるんだ。だからエロ幽霊ってわけ、納得した? つー訳でよ、もう一体エロ幽霊ひき寄せようぜ」
『俺らつき合おう』――まるで空気のように、違和感のない綾人の告白に、気づくと私は首をたてにふっていた。
綾人のつくった料理のひとつを箸に取ると、ふわり桜の花びらが舞いおり薄紅色に染めた。