さくら、舞う。ふわり
~ふた重~ ふわり、花ひらく。
桜花の香りに誘われて、由衣が訪ねた観桜(かんおう)の地で、綾人とめぐり合えた。
それからの由衣はというと、とても快活な性格となった。ひとづきあいの下手な由衣は、しかしひとりふたりと友ができ、今を生きることに歓びさえ見出した。
今日は綾人の十八回目の誕生日だ。
それは去年の今日、奇しくも桜の地で邂逅(かいこう)を果たした日。彼から告白を受けた記念日こそ、綾人の誕生日でもあったのだ。
無論のこと、逢ったばかりの由衣が知るはずもなく、のちに教わり驚くことになる。
なぜ教えてくれなかったと訊ねると、返ってきた言葉は『恥ずかしいから』だった。殊に女子は誕生日を祝ってもらうのは嬉しいものだが、逆に男子はそれを口にするのは照れくさい。
ともあれ去年は知らずじまいで終わったが、今年こそ心を込めてただひと言『おめでとう』と、最愛の彼に贈りたいと願うのは、乙女として至極当然のこと。
ふたりがつき合うことになった記念日と、綾人の誕生日が同日とあって、由衣はまえ以ってサプライズ的なことをしようと考えていた。
けれども一度として、他人を祝うなどといった行為は、生まれてこのかた思えがない。
そういったイベント事に精通する、妹に教授を乞うという手もあるが、いかんせん家族に恋人ができたなどと報告していない。
それはなぜかというと、恥かしいという一文に他ならない。