さくら、舞う。ふわり
昨夜のうちから、両親や妹には友達の誕生日だと偽り、従って早朝よりキッチンで作業をしても、怪しまれずに事を為し終えることができた。
ペーパーバッグに収めたケーキを取ると、由衣は一路綾人の許へ向かうのであった。
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高等部も三年になると、皆それぞれ進路を決め始める。
由衣はまだ自身の行く末が定まらず、それなら大学で決めればいいと、両親によって進む大学を決められてしまう。
惰性(だせい)ではあるが、これまで両親に逆らったことのない由衣のこと、別段とフラストレーションを感じることもなく応諾した。
そして綾人はというと、出逢った頃に教えてもらった、フレンチ・シェフの夢に向かって、今も猛勉強をしている。
シェフになるためには、料理の腕をみがくだけでは、まだ足りないらしい。それはセンスを、それから豊富な知識を、繊細な味を見極める舌に至るまで、努力を惜しむ訳にはいかないのだ。
日々を努力と惜しむことのない彼を応援し、いつしか由衣も綾人の店を手伝いたい、そう秘かに思い始めたある日のこと。
いつものように、由衣が綾人の部屋にお邪魔していると、彼から思わぬ話を聞かされた。
『俺さ、高校卒業したらフランスにいく』
初めなにを言っているのか理解できず、由衣は必死にフランスという単語を脳裡で反覆する。