さくら、舞う。ふわり
どうしよう。綾人はもう怒ってはいないかな。
自宅から綾人の家までを歩く道のりで、私は色々なことを考えた。どうして笑顔でいいよと、いってらっしゃいと言えなかったのか。
初めて出逢った日に、彼から夢の話を聞いていたのに、それなのに私は綾人から夢を奪うような、彼女として最低なことを言ってしまった。
何度ベッドへうずくまり、泣き明かしたか知れない。散々まぶたを腫らし、妹にはブスだと貶され、まさに踏んだり蹴ったりな日々を過ごした。
けれどもその期間、綾人と逢う時間が空いた結果、ケーキを焼く腕だけは上達した。七転び八起き、転んでもただでは起きないスキルを身につけた、そう信じて已(や)まない。
「よし……勇気を出せば何とかなる」
ひとり言いうほど追いつめられてるなんて、最高に緊張しまくってるじゃない。
バッグから鍵を取り出し施錠を解きながら、今にも飛び出そうな心臓をなだめるために、ひとり心のなかでつっ込みを入れる。
「……お邪魔しまーす」
綾人に聴こえないくらい小さな声で、私は入室の挨拶を口にすると、三和土で靴を脱ぎ音を立てないよう廊下を歩く。