さくら、舞う。ふわり
綾人の家を後にして、ひとり涙しながら来た道を戻る。
なんてみじめなんだろう。彼の誕生日に、ふたりの記念日に、関係が潰えることになるなんて。綾人に喜んでもらおうと、これまで慣れないケーキづくりに励んだのに、
ひと言謝って、それからいってらっしゃいと言うつもりだった。
けどそれも、もうどうでもいい。すべては終わってしまった。彼が終わらせたのか、それともフランスに行くことを快諾しなかった、私に非があり終わったのか。
それも今となっては、もうどうでもいいこと。はやく家に帰って、気が済むまで泣き明かしたい。
「由衣!」
歩道から十字路を横断しようとした直前、うしろから私の名を呼ぶ綾人の声が聴こえた。
ふり返ってみると、どうにか脱いだシャツを羽織っただけの、スウェットすがたの綾人が走ってくる。足許を見てみると、よほど慌てたのか素足のまま。
「来ないで!」
彼の顔を見るだけで、また酷い吐き気に襲われる。私は大声でそう叫ぶと、一気に十字路に飛び出した。
「由衣―――ッ!!」
後から考えてみると、なりふり構わずに追いかけて来てくれた、綾人をなぜ待っていられなかったのか、後悔しない日なんてない。
後悔は先に立たない……なんて皮肉な言葉なんだろう。
来る日も、来る日も。私はその言の葉に捕らえられている――――――