さくら、舞う。ふわり

『ほんとうにね。この場所はあの時のまま、時が止まっているのよ。今の私には、それがよく分かる。初めて逢った日、綾人くん私に教えてくれたでしょう。この場所には幽霊がいるって。

けど綾人くんたら、その幽霊たちを「エロ幽霊」だなんて言うんだもの。怖いと思ったけど、そのひと言で恐怖よりも笑いの方が大きくなっちゃって。……懐かしいなあ』

「あの頃に戻りたいな。そしたらもう一度、俺たち初めからやり直せるのに」

『そうだね……ううん、それは無理だよ。一度失ったものは、決して元には戻らない』

 綾人は一度も由衣の面(おもて)に目をやらず、ふわりふわりとほころび散る、桜花をただひたすら眺めていた。


 一年に一度だけ咲き誇る、桜の花みたいな私たち。出逢い笑って睦み合い、それから喧嘩して浮気もされた。

 でもね綾人くん、あの日私のあとを追いかけてくれたこと、今でも嬉しくてしかたがないんだよ。その後にすぐ、綾人くんは私から逃げるようにして、フランスへ行ってしまったけど。

 高校ぐらい卒業して旅立てばいいのに、半ばで辞めて日本からすがたを消した。
< 21 / 28 >

この作品をシェア

pagetop