さくら、舞う。ふわり
「ごめんな由衣、俺……おまえを残してフランスに行ったこと、今でもすげえ後悔してる。本当はもっとそばにて、由衣が淋しくねえように、俺が支えてやらなきゃいけなかったんだ。
けど俺さ、怖かったんだ。現実を受け入れるのが嫌で、何もかも捨てて逃げ出したんだよ。あんなことしなきゃよかった。
魔が差した……って言うと虫が良すぎるかも知んねえけど、俺は由衣が嫌で浮気なんかしたんじゃない。ただ苦しかったんだ。一番に理解して欲しいやつに受け入れてもらえなくて」
そう話すと綾人くんは、今度はうつむき、まぶたをとじて痛みに耐える。
『もういいよ。十年もまえのことを、いつまでも引きづらないで。それよりも私は、綾人くんにまえを向いて歩いて欲しい。過去にとらわれないで、しがらみなんて今ここで捨てて欲しい』
もう毎年のように、十年以上にもわたって、私は彼に同じ言葉を伝えている。確かに初めは苦しかったけど、それもすでに過去のこと。悲しみと一緒に、あの日に置いてきた。
「ほんと情けないよな。もう俺、今年で二十七になるんだぜ。けどちっとも変わってねえ。歳ばかり食って、中身はてんでガキのままなんだ」
自嘲を含む科白を吐くと、ひとつため息を落として、綾人はまたそらを仰ぎ見た。