さくら、舞う。ふわり
それも毎年、毎月毎週毎日、一分一秒だって、私の時は進まない。
それが分かってしまった時から、もう憎しみの心はなくなった。いくら悲しんでみても、失ったものは二度と元には戻らない。
そうすると気づいたことも。それは綾人くんの心。私がこの世を去り、誰よりも苦しんだのは綾人くん、あなただった。
目のまえで恋人が車に轢かれたんだもの、その光景は寝ても覚めても、決して消えてくれない悪夢なはず。それは死んだ私よりも、辛い現実だと思う。
だからもう、そんな苦しみから、心を解き放ってあげて。自由に生きていって欲しい。
だからね、私は今日ちょっとしたサプライズを用意したの。十年まえに渡せなかった、プレゼントを綾人くんにあげる。
どうか気づいて欲しい。そしてどうか、思いのままに生きて。私の分まで――
「十年か……あっという間だな。由衣がいなくなって、俺に残されたものといったら、もうシェフになる夢だけだった。きっと立派んなって、由衣に誉めてもらいたかったんだ。
がむしゃらに生きてきて、自分の店が持てるまでになったぞ、俺を誉めてくれるか?」
『もちろんだよ。とても誇らしいと思ってる。でもそろそろ、ひとりで走るのはやめにして、少し立ち止まってもいい頃よ? これからはゆっくり歩いて、そばには一緒に歩いてくれるひとも必要』