さくら、舞う。ふわり

 由衣にはふたつ下の妹がいる。彼女は色恋ごとには敏感で、日に日に変わってゆく姉をみて、綾人の存在を見抜いた。

 もちろん問い詰められた結果、吐かされたといった方が正しいが、それでも姉の初めてできた恋人を、妹は我がことのように喜んでくれた。

 由衣はそれまで、姉妹のあいだはもっと殺伐としたものだと思っていただけに、初めて聞く妹の本音にそれは驚いた。自分の殻にこもるあまり、彼女のことが見えていなかったのだ。

 それからもうひとつ、妹を見ていて気づいたことがある。綾人の存在を知られてからは、幾度となく彼のバイト先に顔を出し、いつしか妹の、綾人を見る目に気づいたのだ。

 けれども由衣はそれから目を逸らし、敢えて気づかないふりをしていた。

 今でも妹は、綾人のことを想っている。でも由衣に気をつかい、想いを心の奥深くにとじ込めている。それを今日は偶然をよそおい、由衣にとって最後の邂逅にしようと決めたのだ。

『もう直ぐここへ、妹が通りかかるわ。あの子は私とよく似てるから、きっと綾人くんの心を癒してくれる。そうしたらもう、私はこの場所から旅立つことができる』

 ふわりと散りぬべき桜花を眺める、綾人の耳もとでそっとささやく――『さようなら』と。
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