さくら、舞う。ふわり
時はめぐりし十年の砌(みぎり)を経て、ようやく由衣は自由を手に入れた。
「由衣……俺は今でも、おまえのことを愛してる。この想い、どうしたらいい?」
『大丈夫。きっと綾人くんは、もう一度あの頃のように、笑い合っていけるから』
綾人の耳もとから顔を離すと、今度は正面へとまわり、由衣はそっと口唇を重ねる。最後の口づけは、冷たくて死の味がしたけれど、それでも由衣の心は満たされた。
いっそう大きな風が吹くと、桜とともに重箱を包む風呂敷が舞い、遊歩道へと飛んでゆく。綾人は立ち上がると、風呂敷を求め由衣の許を去る。
由衣はその後ろすがたを心に刻み、そして微笑むと、そらに舞う淡紅色した桜花へと消えた。
「ったく、どこまで飛んでくんだよ。もしかして、由衣がイタズラでもしてんのか?」
「あの、もしかしてあなた――」
ふわり、ふわり。
ほころび花ひらき、そして儚く散る。
淡紅色の銀世界で、今年も桜の雪が舞う――――――
さくら、舞う。ふわり / 了