さくら、舞う。ふわり
石畳で舗装された緑道を、当てもなく思い耽りながら歩く。
黄昏時の公園はやけに閑散としていて、今この時に生きているのは自分だけじゃないかと、やるせない気持ちを昇華させるように、由衣はひたすら理想の世界に思いを馳せた。
しばらく歩いていると、目のまえ一面を淡紅色の情景がすがたを現す。
「……すごい」
思わず口を衝いて出た言葉は単純ではあるが、けれどもこの上なく的を射たものだ。
艶やかに華やかに、まるで競い合うかのように咲き乱れる、それは見事な桜並木が由衣の意識を奪う。風に舞う薄紅の花弁が、季節外れのぼたん雪のように、淑やかに地を染めていた。
これは道草をして正解だったなと、由衣は佇み桜花の銀世界をしばし静観する。
燃ゆる陽も役目を終え、地へとすがたを隠す時分。未だ我を忘れ佇む由衣に、ひとりの少年が声をかける。
「あっと、その。俺べつに怪しいやつじゃないんで、先に断わっとくっすね。つかもう遅いんで、こんな場所で女の子がひとりでいたら、ヤバいっつか帰った方がいいっつか……」
どうやら夕刻を大幅に過ぎ、それでも帰る気配のない由衣を案じ、堪りかねて声をかけたようだ。
少年は由衣から一定の距離を取り、まだ「って、なに言ってんだ俺」などと、訥々とこぼすようなお人よしな性格らしい。頭に手をまわし、小首をかしげるすがたに、由衣は思わず噴き出した。