さくら、舞う。ふわり
「ごめんなさい、ひとりで喋ってて。すっかり忘れてたけど、私『香坂 由衣(こうさか ゆい)』、高校二年の十七歳。よろしく、ええと」
「『名倉 綾人(なくら あやと)』。俺も高二で十七、つかタメかよ。てっきり年上かと思って、敬語つかって損したぜ」
互いに自己紹介を終えたふたりは、これから距離がぐんと縮まることになる。けれども今は綾人の放った地雷により、由衣はひと言「ひどい」とつぶやき、へそを曲げ帰ると立ち上がる。
「待てって。だから女ひとりだと、危ねえつってんじゃん。悪かったって、機嫌直せよ。俺が後で送ってってやるからさ、もう少し座んねえ? つかこの角度、パンツ丸見えだぞ」
「きゃあッ!」
日が暮れ、電灯が桜花を婀娜(あだ)やかに演出する、静かな桜並木の一角。由衣のくり出した平手打ちが綾人の頬に炸裂し、辺りをつんざく天誅(てんちゅう)の音が響いた。
「痛ってえ。つかナチュラルに殴んなよ、暴力女。別に減るモンじゃねえだろ」
「減るわよ、なんか色々と!」
大きなプリーツの入った、丈の短いブランド制服のスカートを手で押えると、綾人に託言(かごと)を垂れつつ、ふたたび由衣は腰を下ろした。