零度の華 Ⅱ
『それなら、あの時に殺していた。あたしがお前達を生かしていた理由は、面白いと思ったからだ。裏の人間が表の世界で暮らしたいなんて夢物語を実現させようとしている。こんな馬鹿馬鹿しいことはないだろ』
「馬鹿馬鹿しいなんて、」
『どうだった?表の世界は。お前達が夢見た世界は、憧れたままの世界で理想の世界だったか?』
あたしは橘の言葉を遮るように被せて問う
あたし達は人間がどれだけ醜く、疎かで弱い生き物かというのを知っている
だからこそ、聞いてみたかった
それを知りながらも人間と関わり、何が得られるのか
橘はゆっくりと口を開く
「憧れや理想っていうのは所詮、憧れや理想でしかない。人の醜い部分もあるが、それでも人間という生き物というのは相手の痛みを知り、相手のことを考え行動できる素晴らしい生き物だと思う」
橘はあたしをしっかり見ると、お前には一生わからないだろうなと嫌味を言っているようだ
あたしには全く嫌味には聞こえない
素晴らしい生き物だと分かって何が変わる?
コイツが得たものはこんなものか?
相手の痛みを知り、相手のことを考え行動ができるというが、そんなものただの立前のようなものじゃないか