ずっとずっと、キミとあの夏をおぼえてる。
四、五歳くらいに見えるんだけど……お母さん、どこだろう。

しばらくあやしてみたものの、ちっとも泣きやまない。


「俺は大河。お前はなんていうんだ? 男がずっと泣いてたらカッコ悪いぞ」


今度は、自分が泣き虫だったことなんてすっかり棚に上げた大河が話しかける。
すると、男の子は泣きべそをかきながらも口を開いた。


「……弘樹(ひろき)」

「弘樹か。お母さんは?」

「ボール、落ちちゃったー」


弘樹くんはそう言うと、なにかを思い出したように再び泣き始めてしまった。


「ボール? どこだ。拾ってやるから泣くな」

「ホントに?」


パチッと目を開いた弘樹くんは大河の手を引き走りはじめる。
私も慌ててあとに続いた。


「あそこ」


弘樹くんが指差したのは、街の真ん中を流れる大きな川の支流の草むら。

ドッジボールらしきものが、草に引っかかってぷかぷか浮いている。


「さて、どうするか……」


ボールまで七、八メートルは距離があり、手を伸ばしたくらいでは届かない。
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