ずっとずっと、キミとあの夏をおぼえてる。
「帰るか」

「うん」


家までは十分でついてしまうけれど、この十分が私には大河と話せる貴重な時間だった。

足を踏み出した大河は、変わらず複雑な顔をしている。
いつもなら『腹減った』と口癖のように言うのに、今日はそれすらない。


「大河、あの……」

「ごめんな。試合、出られないかもしれない」


家が近づいてきたところで私が思いきって口を開くと、大河はそれを遮り言った。


「ううん、そんなこと……」


『気にしてない』と言いたかったのに、言えなかった。
気にならないわけがないからだ。


「なに沈んでるのよ。大河らしくないじゃん。ベンチに入れたんだから可能性はゼロじゃないでしょ?」


私は満面の笑みでそう口にした。
もちろん、作り笑いだ。


「そうだな」

「そうだよー。私、観客席から応援してるから」


ベンチに入れるマネージャーはひとりだけ。
当然三年生だ。
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